DP1M-010

 

「ずっと独身でいらっしたのですか」
「そうじゃない。三十五まで妻があったのです。妻は僕に愛想をつかして、逃げてしまったのです」
「なぜ愛想をつかされたのです」
「つい自分の家のことより他のことを考えてしまうのですね。つい妻のことを忘れてしまうのですね、夫の夜の務めをつい他のことを考えすぎて忘れてしまう。まあ、そんなわけです。委しい話はしても面白くありませんよ。要するに僕に夫の資格が足りなかったし、妻は人生に快楽を求めすぎたと言ってもいいかも知れません」
 武者小路実篤『真理先生』より

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