「恬淡虚無」の生活

某製薬会社の「未病」のCM*1でおなじみの『素問』上古天真論篇には、昔の人は100歳を越えてもなお元気なのに今時の人は50歳で衰える*2、といったことが書かれている。その理由は、昔の人は食事にも睡眠にも、そして労働にも気を配り、欲無く静かに節度ある生活をしていたが*3、今時の人は欲のおもむくままにし、すべてに乱れているため*4、というのである。けれども、100歳を過ぎてもなお50歳と同じようにようにしている人などいたためしはない。
こうした昔の人がしていたという「恬淡虚無」の生活は、衰えて往時を忍ぶようになった時に(つまり老いに堪え難くなった時に)、あらゆる欲をなんとかあきらめるために(老いを受け入れるために)はじめて意識的に行うべきもので、元気である間は考えるものではなく、ましてや克己して実践するものではさらさらない。
虚しく過ごすも謳歌するも自由だが、そもそも元気溌剌たる時期などほんとうに短いのだから、よくよく考えた方がよい。
 
 *1:余談になるが、上古天真論篇の女性は七の倍数で、男性は八の倍数で体が変化していくとする論のほかに、『霊枢』天年には男女を問わず十の倍数で変化するという記述もある。
 *2:「上古之人、春秋皆度百歳、而動作不衰。今時之人、年半百而動作皆衰(上古の人、春秋皆百歳を度えて、動作衰えず。今時の人、年半百にして動作皆衰う)」。
 *3:「法於陰陽、和於術数、食飲有節、起居有常、不妄作労(陰陽に法り、術数に和し、食飲節有り、起居常有り、妄りに作労せず)」、「志閑而少欲、心安而不懼、形労而不倦(志閑かにして欲少くし、心安んじて懼れず、形労して倦まず)」。
  *4:「以酒為漿、以妄為常、酔以入房、以欲竭其精、以耗散其真(酒を以て漿と為し、妄を以て常と為し、酔いて以て房に入り、欲を以て其の精を竭くし、以て其の真を耗散す)」。


*マウスをのせれば…

覚書一覧

カテゴリー: 覚書 タグ: パーマリンク