●花粉症の話● 2004/03/19初稿作成、2007/01/30改訂増補 |
| 春といえば春気である風によって起こる花粉症やメニエール病などの季節です。例年に比べ、花粉の量が少ないとはいえ、今年もこの花粉症などの春の病に悩まされる方も多いことでしょう。治療家という立場からすれば、この一年間の治療の成果を確認できる時期なので、期待と不安の相半ばする季節になります。言うまでもなく“立春”から“立夏”までの間を春と言います。 ところで、 花粉症の原因は、花粉ではない 、ということをご存知でしょうか。 なにをばかなことを…と鼻で笑いたくなるところをぐっとこらえて、そのわけを読んで下さい。 なまじ花粉症と命名されているために ―もちろん現代医学の病名であり、花粉に対する過敏な免疫反応(アレルギー)であるとされています― 花粉が原因だと認識させられているにしか過ぎないのです。確かに、花粉に対して過剰な反応を示す人がこの春という時期に特に多いことも事実です。しかし、花粉が大量に飛散する最中にいわゆる花粉症の症状をまったく引き起こさない人も多数いますし、また花粉の飛散量が少ないにも関わらず症状のひどい人もいるのです。 しつこいようですが、もし、本当に花粉が原因であるならば、量の多少に関わらず花粉を吸わざるを得ない状況にある人すべてが花粉症にならなくてはなりません。 もうおわかりですね。花粉は、あくまでも花粉症を引き起こす媒体であって、そのもの自体には人を害するような力を持ち合わせていないのです。つまり、 花粉に反応してしまうその人の状態(体力)そのものがすべての原因なのです 。 ですから、花粉に反応してしまう間は、マスクをしたり布団や洗濯物を外に干さないといった花粉を遮断する一時的な手段は有効ですが、 花粉症の本質的な解決策としては、個々人のいわゆる体質を改善するよりほかに方法はないのです 。 すでに書いておりますが、 ペットアレルギー(待合室・鍼灸の適応)も同様のことが言えます。かわいいペットは、時として具合の悪い人にとってアレルギーを引き起こす媒体になってしまいますが、原因とされたペットにとってはまったく迷惑な話です。 さらに言えば、カゼや冬に特有のインフルエンザや昨年にはやったノロウイルス(いずれも冬の気である寒によるもので、寒さのあたり具合によって両者がわかれる)、というものも、同じく菌やウイルスが本当の原因ではないと言えるでしょう。 重要な事は、“病気を発症するその人の状態”が原因であり、それが問題とされなくてはならないということです。そうすれば、花粉を作る杉などを伐採するというような対策案は、おろかで傲慢な発想であることがわかるはずです。 もう一点触れておくべき事があります。それは、先に書いた「花粉の飛散量が少ないにも関わらず症状のひどい人がいる」という少しおかしな現象についてです。 こういう経験をしたことのある方も少なくないと思いますが、これはどういったことなのでしょうか。現象から判断するに、体力が相当に落ち込んでしまったために、少量の花粉でも過敏な反応をしてしまった、ということが言えそうです。とはいうものの、事の真相は不明ですし、これでは釈然としません。 そこで、ようやく 中国医学独特の自然観・身体観から説明される必要が出てくるのです。冒頭で「春といえば春気である風によって起こる花粉症やメニエール病などの季節」であると述べましたね。 春気または風とは ―気は事物の在り方を示す語で、○気と記すことで○の状態を一言で表現する― 春の在り方を端的に表した術語で、ご存知のように春独特の“発生”“舒長”“動” *1 といった変化を内包しています。また、春の気である風は、五行的には木気であり、人の体では肝という蔵と気を同じくしていますので、通常であれば春になると風気が盛んになると同時に人の肝気も旺気します。しかしながら、理由は別として肝の蔵に故障があると、うまく旺気せできず、季節相応の状態に達しないだけでなく、要求される値が他の季節の時よりも高いために、結果的に肝の気の衰えがより顕著になってしまうのです。 整理すれば、春気の旺気に伴って人の肝気が盛んになれないことにより生じる矛盾が春の病の大きな原因ということが言えるのです。そのために、春の気である風が、特に肝気の衰えた人に悪い影響を及ぼす風邪となり、風にまつわる諸症状が引き起こされてしまうのです *2 。 風邪は、陰陽的には陽邪ですから、人の陽部(特に上半身)に動的(発生、上昇開泄、急速、熱化)な変化をもたらします。その比較的強いものとして、木(の上方の枝葉)が強風に吹かれるように、メニエール病のようなひどいめまい(頭部の揺れ)が起きますし、軽いものとしては、花粉症のような目や鼻の痒み(熱)と涙・鼻水などの液体成分の自動的な流出(開泄)が生じてしまうのです *3 。 最後は難しい話になってしまいましたが、中国医学的な観点から春の病を診れば、春の気が体力の弱った人にとってはよからぬ影響を与える風邪となり、そのために風邪にまつわる症状が出ているのだと理解すればよいのです(春の気と人の気との矛盾[齟齬]それ自体が風邪であり、諸症状を呈する人の状態そのものを端的に示す術語とも言うことができます)。 このようなことから、花粉症の原因が花粉ではないことも、メニエール病が原因不明の内リンパ水腫によるものではないことも説明がつきますし、またそれらの根本的な治療も鍼灸により可能となることも了解されると思います。 ただし、 最低でも1年間の継続が条件となります。 それは、すでに述べたように、季節によって症状の軽重が変化しますから、翌年のひどくなる時期に悪化しないことが確認されなければ、良くなってきているとは判断できないからです。特に花粉症やメニエール病、喘息などは、発症時期が限られていますから、それを過ぎてしまえば良くなったものと思い違いをさせられる病気と言えるでしょう。そこが大きな落とし穴で、季節と(自身の体の状態と)の兼ね合いで、表向きには問題がないように見えているに過ぎません。 “継続は力なり”とは良く言ったもので、一見してよい時期こそ、体の状態を快方に向かわせる大切な準備期間なのです。 治療とは、概して地道かつ地味な作業です。 【注】 *1 :『素問』風論「風者善行而数変。」(風とは善く行りて数たび変ず。)、「故風者百病之長也。」(故に風とは百病の長なり)、『広雅』釈詁一云「風、動也。」(風は、動なり。)、『玉篇』云「風、以動万物也。風者、萌也、以養物成功也。散也。告也。声也。」(風は、以て万物を動ずるなり。風とは、萌なり、以て物を養い成功せしむるなり。散なり、告なり、声なり。)。 *2 :あるいは、もともと肺や脾の蔵が故障している人は、春になると五行的に相克関係(シーソーのような関係)にある肝が旺気することで、いつもよりもより肝との格差(肝>肺・脾)が広がることになり、そのために肝と同気である風の影響が強く出る、という場合もあります。 *3 :最も強い影響を受けた状態を“中風”と言い、台風になぎ倒された大木のごとく、人がばったり倒れてしまいます。いったんそうなってしまうと、多くの場合、回復しても比較的太い枝が折れたように、人の手足も麻痺して動かなくなる半身不遂に至ることになります。 |