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 「他人の前へ出ると、また全く人間が変わった様に、大抵なことがあっても滅多に紳士の態度を崩さない、円満な好侶伴であった。だから彼の朋友は悉く彼を穏やかな好い人物だと信じていた。・・・兄と衝突している時にこんな評判でも耳に入ろうものなら、自分は無暗に腹が立った。一々其人の宅迄出かけていって、彼等の誤解を訂正して遣りたいような気さへ起こった。  『行人』