壱百六拾七

甘い味のする闇だった。気づくと心はいつの間にかくりかえし哲生の唇をおもっている。すべりこませた胸の、ほほに触れる感じを思い出す。それほど確かなことはこの世のどこにもなく、そのために私は何もかもを投げ出してもいいと思った。それなのに今はまるで宇宙の闇を見ているように孤独なのだ。二人には行き場がなく、続く明日がない。今こんなに冴えた夜の底で、同じことを考えていても、朝陽が刺せば淡雪のように溶けてしまうかもしれない。  『哀しい予感』