養生(摂生)②

我「結局、死ぬんだから楽しまなきゃあ損さ。」
彼「いや、ごもっともごもっとも。しかし、見上げたお覚悟ですな。」
我「覚悟?」
彼「ええ。それはつまり、無茶をして何かあってもジタバタしないということでしょう?好き勝手したんだから何の言い訳もしないってことでしょう?お医者様には何の文句も言わないってことでしょう?あなたにはそのお覚悟が、きっとおありなのでしょうね。」
我「あ、あたり前じゃないか。」
彼「それでも、その代償は大きいかもしれませんよ?」
我「そりゃそうかもしれん。しかし、そんなものはその時にならんとわからんよ、君。」
彼「確かに。…もう一度うかがいますが、その覚悟はおありなのですね?」
我「え?ああ…少なくとも今はね。時に及んでどうかはわからんが、きっとそうでありたいね。」
彼「よくわかりました。きっと、きっと、そうであって下さいね。」
我「うむ。」

彼「あの…、一点だけ腑に落ちないことが…。」
我「何だね、まだ何かあるのかね?」
彼「少々言いにくいことなんですが…。」
我「いいから言いたまえ。」
彼「では。何と言いますか、自分の体というものは、果たして自分だけのものなのでしょうか?」
我「どういうことだね。もっとはっきり言いたまえ。」
彼「つまり、こういうことです。今おっしゃった覚悟というものは、極めて自己中心的であるように思うのです。他人のことを一切考えていないと言えばよいでしょうか。」
我「他人?」
彼「ええ。身近な家族や、あるいは友人、仕事先の人など、なにしろ関係のある人たちのことです。」
我「私の体とどう関係があるんだね?」
我「おおいに関係があると思うのです。なぜなら、あなたの体はもはやあなた一人のものではないからです。あなたの不調は関係する人すべての不調でもあるからです。」
我「何を言っているのか、さっぱり分からん。」
彼「よく考えてみて下さい。もしあなたの身に何かあったら、周りの人は何の影響も受けずに済むのでしょうか?関係の深さによって違うでしょうけれど、大なり小なりあるはずです。家族には看病させ、友人には見舞いに来させ、仕事先には穴埋めをさせるでしょう?」
我「う~む。」
彼「それに大病した日には、もっと大変ですよ。治療には相当のお金がかかるでしょうし、長引けば解雇だってあり得ますよ。あげくの果てに、不治の病だったら…。」
我「わかった。よくわかったから、もうよしてくれ…。」
彼「少々、言いすぎました。」
我「要するに、身勝手だということだな。」
彼「いろいろと考えていくとそうなりますね。…あ、大切なことを一つ忘れていました。そう、これから生まれるであろう次の世代ですよ。あなたの子供ですよ。赤ちゃん。」
我「確かに。遺伝というやつがあるからな、影響は大きいかもしれない。そりゃあ、できれば健康に生んでやりたい。」
彼「それだけではないですよ。子供が独り立ちするまでは元気でいないと。」
我「子供にも、周りにも、いろいろと迷惑がかかるって言うんだろ?」
彼「ええ、その通りです。」
我「つまり、なにしろ自分を大事にしろ、とそういうことになるな。」
彼「そうです。それが他人を大事にすることにもなるのですから。」
我「どうも、あの覚悟は考えなおさんといかんようだな。しかし、そう容易ではあるまい。」
彼「ごもっともです。なによりも他人を想い、そして自分を想って…。いかがです?」
我「そうだな。まあ、ぼちぼちやってみるとしよう。」
彼「それがようござんす。私もなるたけそうしてみようと思います。」

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